ATTACというグローバリゼーションに反対する
国際的な団体のニュースの日本語版に載ったものです。
書いているアルンダティ・ロイはインドの有名な作家で、
シュリプラカッシュやアナンドの協力者で、
「ブッダの嘆き」はもちろん、
アナンドの新しいフィルムでも名前が紹介されていました。
インドから見たアフガニスタン空爆という、
とても参考になる内容だと思います。


《要 約 版》
●戦争=平和
War Is Peace
 
By Arundhati Roy


10月7日、米政府は対テロ国際同盟に後援され
アフガニスタンに空爆を始めた。
宗教の原理主義者であろうと
政府による報復と見せかけた戦争であろうと、
テロ行為は決して正当化できない。
罪の無い人々の死は、
米国で亡くなった市民の数と相殺されるのではなく、
犠牲者の数に加算されるのである。
人々が戦争に勝つことはめったにないし、
政府が負けることはめったにない。
人々は殺され、政府は再編成される。
両国の市民は目隠しされ、予想できない恐怖に生きる。
ブッシュ米大統領とブレア英首相は、
「私たちは平和的な国/人々だ」という。
知らなかった。
豚は馬。
女の子は男の子。
戦争は平和だとは。

FBI本部でブッシュ大統領は言った。
「これは世界で最も自由な、憎しみ・暴力・殺人・悪を拒否する米国の使命だ」。
以下は第二次世界大戦以後、米国が戦争し爆撃した国である。
中国、韓国、グアテマラ、インドネシア、キューバ
コンゴ、ペルー、ラオス、ベトナム、カンボジア、
グレナダ、リビア、エルサルバドル、ニカラグア、パナマ、
イラク、ボスニア、スーダン、ユーゴスラビア、
そしてアフガン。
米国のいう「自由」は何を意味するのか?
 国内では、言論、宗教、思想、芸術の表現の自由など。
国境の外では、支配し、服従させる自由。
だから米政府が戦争を
「無限の正義/自由のための行動」というとき、
私たち第三世界の人間は恐怖におののく。

対テロ国際同盟は世界の最富裕国だ。
世界の武器のほとんどを製造、販売し、
化学・生物・原子力の武器を最も多く保持する。
ほとんどの戦争を戦い、
近代の民族殲滅・民族浄化・人権侵害を実行した。
多くの独裁者に資金提供し武器を与えた。
タリバンは東西冷戦の余波で、
瓦礫とヘロインと地雷のるつぼの中で形成された。
最年長のリーダーは40代前半。
その多くは(戦闘によって)障害を負い、
目や腕や脚を失っている。
ソ連と米国の間にあり、
20年間に450億ドル分の武器と弾薬が流入した。
少年達(多くは孤児)はこの時期に育ち、銃で遊び、
家族や女性との生活の安心感を知らない。
続く戦争は彼らから優しさと哀れみを奪い、
今彼らはその残忍さを自分達の国民に向けている。

人々は二つの原理主義(米政府とタリバン)のどちらかを選ぶ必要はない。
世界中の人がみな中流階級の消費者になることも、
みな特定の宗教の信者になることもほぼ不可能だ。
問題はどのように多様性を調整するか、
経済・軍事・言語・宗教・文化的覇権の推進力をどう抑制するかだ。
単一栽培がどれほど危険かエコロジストは教えてくれる。
覇権世界は健全な野党を持たない政府のようだ。
一種の独裁になる。

アフガンでは過去20年間の紛争で150万人が亡くなった。
瓦礫と化したアフガンは今、
細かい塵になろうとしている。
米国のパイロットはアフガンを標的の多い国ではないと言う。
記者会見で「米国は標的を攻撃し尽くしたのか」
と聞かれたラムズフェルド国防長官は答えた。
「まず私たちは標的を再攻撃する。そして、標的は尽きていない、アフガンは…」
会見室には笑いが起きた。

アフガンでは、北部同盟がカブールに向かっている。
リーダーのアハメド・シャー・マスード氏を亡くし、
残されたのは、残忍な「将軍」、元共産主義者、強情な聖職者の脆い同盟だ。
民族ごとに分断されているまとまりのないグループであり、
その一部は過去にアフガンで権力を握っている。
国際同盟の助けを得てタリバンを倒す準備ができた。
タリバン兵士らは北部同盟へ離反を始め、
制服を着替えるのに忙しい。
けれどそんなことは問題ではない。
愛は憎しみ、
平和は戦争。

強国らはアフガンで89歳のザヒル・シャー元国王率いる王国を
復興させるという。
ゲームは続く。
サダム・フセインを支持してやっつける。
ムジャヒディンに資金供与して爆撃する。
ザヒル・シャーを置いていい子でいるか様子を見よう。

この冬餓死する危険性が高い750万人のアフガン人に
食料援助が届かない可能性が話される。
米政府が予定している数の食料投下を全部足しても
50万人の一食分に過ぎない。
援助機関はこれを皮肉で危険な広報活動と非難する。
本当に必要とする人々に届かないし、
食料を取りいった人が地雷を踏む危険がある。
食料箱には米、ピーナッツバター、クラッカーなどと
プラスチックのナイフやフォークが入っている。
3年間の干ばつの後、空から機内食!
何カ月もの空腹ともだえるような貧困を理解せず、
米政府はこの悲劇さえイメージアップに使おうとする。
逆ならどうだろう。
タリバンが「真の標的は米政府とその政策」
と言いニューヨーク市を爆撃し、
ナンやケバブの入った食料を投下する。
ニューヨークの人々はアフガン政府を許す気になるか?
プライドは裕福な人だけが持てる贅沢品か?
このような激怒がテロを生む。
憎悪と報復は箱から出したら戻せない。
罪のない人々が100人殺されるたびに
何人かの将来のテロリストが生まれる可能性は大きい。

■これらは私たちをどこへ導く?

ある国にとってのテロリストが、
他の国にとって「自由のために戦う人」であることも多い。
米政府は世界中の反逆者に資金・武器を提供してきた。
政治家らはこのような強烈な気持を狭い目的のために操作することは
最終的には悲惨な結果を招くことを理解すべきだ。
政治的な便宜のために宗教的感情を利用するのは最も危険だ。
9月11日のテロリストを追い詰める必要はあるが、
戦争が最良の策か?
怒りを膨張させこの世を生き地獄にするだけか?
結局のところ、何人の人間をスパイできる? 
いくつの銀行口座を凍結できる? 
いくつの会話を盗聴できる? 
9月11日の前でさえ、CIAは人間が処理できる量を超える情報を集めてきた。
つぶさな監視は倫理と市民の権利にとって悪夢だ。
そして貴重な自由は最初に影響を受ける。 

世界の政府は偏狭な言動の広がりを
自分たちの利益のために利用している。
例えばインドでは、
ヒンドゥー教の過激派を保護する右派政府が
インド学生イスラム運動を禁止している。
何百万人ものインド人はイスラム教徒だ。
彼らを疎外して何が得られる? 
戦争が続く中、国際報道関係者は独立して戦争領域に入れない。
アフガンのラジオ局は破壊された。
何人が殺され、どれほどの被害が出たか正確な数字はない。
アフガンの地に耳を付ければ、
怒りの激しい太鼓の音が聞こえる。
お願いだから今、戦争を止めて下さい。
もう人は十分死んだ。
賢いミサイルにも十分な頭はない。
抑圧され憤激した人々の家全てを吹き飛ばしている。

ブッシュ大統領は言った。
「200万ドルのミサイルを10ドルの空テントに当てはしない」。
ブッシュはアフガンにその金に値する標的がないと知るべきだ。
彼の家計簿に照らすだけなら、
貧しい国々の安い標的と
安い命のための安いミサイルを生産すべきかもしれない。
けれどそれでは国際同盟の武器製造者のビジネスにとって
意味がないのかもしれない。
例えばCarlyleグループは
120億ドル規模の世界最大級の民間企業で、
防衛分野に投資して軍事紛争から稼いでいる。
Carlyleでは、元米国防長官のFrank Carlucciが会長で専務取締役。
彼はラムズフェルド国防長官の学生時代のルームメイトだった。
その他のCarlyleのパートナーらは
元国務長官のJames A. Baker III、George Soros、Fred Malek。
米紙によるとブッシュSr.(ブッシュ大統領の父親)が
アジア市場からCarlyleグループに投資を試みているという。
みな同じ一族の人間だ。
もう一つの一族の伝統的なビジネスは石油だ。
ブッシュ大統領とチェニー副大統領は米石油産業で富を築いた。
アフガンに接するトルクメニスタンには、
米国の30年分(または途上国一国の200年分)の
エネルギー必要量の天然ガスと石油がある。
湾岸地域の米軍の駐留が
石油に対する戦略からだと疑わない人は少ない。
米石油巨大企業のUnocalは、
アフガン〜パキスタン〜アラブ海の
石油パイプライン建設許可を得るためタリバンと交渉してきた。
南・東南アジアにアクセスできると期待してのこと。
しかし計画はだめになった。
そして今米石油産業に大きなチャンスが訪れた。

米国では、軍事・石油産業、主流のメディア、対外政策を
同じビジネス連合が支配しているから、
銃と石油と防衛の取引がまともに報道されることは期待できない。
プライドを傷つけられた人、
愛する人を殺された人は、
政府の言葉を安定剤のように服用している。
これによりでたらめな政府に管理された
島国の人々として維持されている。
では、ばかげたプロパガンダだと知りつつ見ている私たちはどうする?

 ピーナッツバターに混ぜられた嘘と残忍さを、
空腹だから食べる?

 それともアフガンでの冷酷劇を見て吐き気を催し、
一斉に「もうたくさんだ」と声をあげる?


◎筆者 Ms.アルンダティ・ロイは、
インドを舞台にした小説、「小さきものたちの神」(God in Small Things)
[日本語訳はDHCから1998年に刊行されている]
でブッカー賞を受賞している。
ほかに「わたしの愛したインド」(築地書館、2000年)。